てることが多いから。思い当たること、あるでしょ?」「僕のことか? それとも、戦場ヶ原のことか?」「両方」「まあ、あるね」ふぎょうじょうただなんこうふらくろうじょうせん257試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中それはそうだ。しかし、そうだとするなら。「でもね、阿良々木くん。人付き合いが嫌いなのと、人間嫌いは、違うんだよ?」「なんだよ。そんなの、一緒じゃないのか?」「『世の中に 人の来るこそ うるさけれ』」落ち着いた、静かな声で、羽川は言った。「『とは言ふものの お前ではなし』……いくら阿良々木くんが国語苦手だって、このくらいなら、言ってる意味、わかるよね? それに、私が言いたいことも、わかってくれるよね?」「……わかった」そう答えるしかない。まるで子供扱いなのは、業腹だけれど。それでも――お礼を言う他に思いつかない。「サンキュ。悪かったな、わけわかんないことで時間取らしちまって」「わけわかんなくはないよ。大切な彼女のことを知りたいと思うくらい、普通のことだもん」羽川は言う。平気でそういう照れくさいことを言う。全く、委員長の中の委員長。「でも、あんまり恋人の昔を探るみたいなことは、しない方がいいとは思うよ? 興味半分面白半分にならないよう、阿良々木くん、その辺りは、きちんと節度を守ってね」最後にもう一本、太い釘を刺すようなことを口にしてから、それじゃあばいばい、と続け、そして黙る羽川。ばいばいと言ったきりどうして電話を切らないのだろうと僕は首を傾げたが、そうだ、僕は春休みに羽川に教えてもらっていた、電話というのは、掛けた方から切るのが礼儀なのだった。本当、怖いくらい律儀な奴だ……。そう思いながら、「じゃあな、また明日、学校で」と言って、僕は通話終了のボタンを押した。そして携帯電話を閉じて、尻のポケットに仕舞う。さて、どうしたものか。戦場ヶ原の言うことや、その態度に対し、当然、かつて同じ立場に立った者として、似たような経験をした者として、一定の理解を示さないわけじゃないのだけれど――僕としてはどうしても、神原の方に、同情的になってしまうな。できれば――と思う。ごうはらせつど258試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中それに、もしも、とも。大きなお世話だろうし、余計なお節介だろうし、ありがた迷惑もいいところだろう――いつか戦場ヶ原は、優しさを敵対行為と看做すという、常軌を逸した思想哲学を僕に披露したけれど、これに関しては、優しさとさえ、いえないだろう。だって、そこには、姑息な計算がある。口にするのも、思うことすら憚られるような、そんな口幅ったい思惑が。でも、僕は思わざるを得ないのだ。戦場ヶ原に、失ったものを取り戻して欲しいと。戦場ヶ原に、捨てたものを拾って欲しいと。だって。それは僕には、絶対にできないことだから――「こればっかりは、忍野に相談してもしょうがないことだろうしな……あの陽気な馬鹿野郎は、フォローや事後処理に向いている性格じゃ、ないだろう。まあ、僕も人のことは言えないんだけど……って、あれ」ころっと忘れていた大事なことを、ふとした瞬間に、なんの契機もなく思い出すことはよくあるけれど、このときがまさにそうだった。僕は、肩にかけていたボストンバッグのチャックを開けて、中身をチェックする。チェックするまでもなく、その結果はわかっているのだけれど、なんていうか、悪足掻きだった。案の定――戦場ヶ原から受け取ったあの封筒は、ボストンバッグの中になかった。忍野に渡す仕事料の入った、あの封筒。「座布団の脇に置いたまま、忘れてきちゃったか……あーあ、どうするかな」お金のことだから早めに済ませておいた方がいいのは確かだが、けれどそんな取り立てて急ぐというわけではないし、明日また学校で会ったときにでも受け取ればいい話ではあるのだが……どうしよう? そんなことはないとは思うけれど、本当はちゃんと服のポケットにでも入れていて、それを、羽川と電話しながら歩いている内に、気付かず落としてしまったという可能性もなきにしもあらずだから、念のために戦場ヶ原に電話をして確認を取った方がいいのか……いや。自転車を押しながらの歩きだったから、そんな距離を稼いだわけでもない、ペダルを漕いで戻れば、すぐさま民倉荘に到着するだろう。ならば、今からでも取りに戻る方が正着手だ。時間が時間だから、最悪の場合戦場ヶ原の父親と顔を合わせる羽目になるかもしれないが、しかし、話に聞く戦場ヶ原の父親の多忙さを考えれば、その確率は無視していいほどには低いはずである。じょうきはばかくちはば おもわく? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?せいちゃくしゅ259試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中電話で済むと言われれば確かにその通りなのだけれど、戦場ヶ原とは、会えるチャンスには少しでも会っておきたいからな。アピールの仕方はわからないけれど。少しは恋愛気分を味わわせてもらうとしよう。「んじゃ、まあ」サドルにまたがりつつ、自転車の方向を反転させて――僕は、雨が降ってきたのかと思った。雫が頬に触れたから、とか、そういうことではなく、自転車を反転させたすぐ先にいた――まるで僕のことを今までずっと尾行していたかのように、すぐ先にいた『人物』の格好が、僕の視界に入ったからである。『人物』。上下の雨合羽。フードをずっぽり、深く被っている。黒い長靴に……左右のゴム手袋。雨が降っているのならば、それは、その天候に対する完全装備といっていい……ただし、手のひらをかざしてみても、やはり雫一滴、僕には感じられなかった。空は、星空。郊外の地方都市、その更に田舎町には――月の光を遮る、空を切り取る無粋なものなど、千切れた群雲の他には何もない。「……えっと」あー……。わかってる……この展開は、わかってる……よく知っている、よくよく知っている展開だ。春休みに
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