のことをずっとおんぶしてくださって、道案内をしてくれたものです」「過去の記憶が美化されてるぞ!?」八九寺の中で戦場ヶ原とのことは、さだめしトラウマになってしまっているようだ。まあ、お互いの抱える事情を考慮すれば、さもありなんっていう感じだけど……。八九寺は腕組みを続けたまま、「ふうむ」と唸ってみせる。「あれ、でも……確か、阿良々木さんと戦場ヶ原さんは――その、まあ、何と言えばよいのでしょうか、えーっと」八九寺はどうやら、慎重に言葉を選んでいるようだった。質問の内容はおおよそ見当がつくけれど、多分、八九寺としてはそれを直截的な表現で口にすることへの抵抗があり、なんとか別の言い方を探っているといったところだろう。小学五年生のボキャブラリーで、一体全体どのような取捨選択が行われるのか、好奇心というほどではないにせよ、少なからず興味があったので、あえて助け舟を出さずに、八九寺を見守る僕だった。やがて、八九寺は言った。「……恋愛契約を結んでらしたんですよね?」「最悪のチョイスだな!」まあ予想通り、怒鳴ることになった僕だった。教科書のように綺麗なやり取りだ。「は? 阿良々木さん、わたし、何かおかしなことを言ってしまいましたか?」「表面的にはおかしな言葉ではなくとも、その裏に匂うとても嫌な意味合いを、感じ取れない人間はなかなかいないと思うぞ……」「契約……で駄目なら、阿良々木さん、取引ではいかがでしょうか。恋愛取引」「より酷くなった! いいからもう普通に言え!」あふむす211試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「はあ。ではまあ、お言葉に従いまして、普通に言うことにしましょう。その気になれば普通にすることくらい、わたしにとってはお茶の子さいさいです。では、いきますよ? 阿良々木さんと戦場ヶ原さんって、確か、男女交際をされていましたよね」「……うん、まあ」男女交際か。えらく古めかしい言い方で攻めてきたな。それがお前の普通なのか……。「では、勉強を教えてもらうなんて言っても、そんなのはただの口実にしかならなくて、お二人で乳繰り合ってしまうだけではないですか?」「………………」乳繰り合うとは、また、古めかしい……。こいつのボキャブラリーは絶対に変だ。「留年できるかどうかが問われている実力テストを前に、恋人さんのお家を訪問するだなんて、わたしからすれば、自殺行為としか思えませんが、阿良々木さん」「卒業できるかどうかだ、僕が問われているのは」かなりの馬鹿だと思われているらしい。僕は僕が可哀想だった。「あと、自殺行為とか言ってんじゃねえ」「では、自殺そのものとしか思えませんが」どうやら僕は小学生から苛めに遭っているらしい。僕は僕が可哀想だった。「お前とはいずれ、出るところに出て決着つけなくちゃいけないみたいだよな……」「出るところが出ている? 胸とかお尻とかですか? 阿良々木さんは小学生の身体に何を求めているのでしょう」「黙れ。揚げてもない足を取ろうとするな」僕は八九寺の頭を叩いた。八九寺は僕の脛を蹴り返した。痛みわけ。相身互い。「まあ、でも、その辺は大丈夫だよ、八九寺……戦場ヶ原の奴、そういうところには、やたらめったら厳しい奴だから」「厳しいとは、お勉強に? スパルタなんですね。ああ、そういえば、あの方、馬鹿が嫌いそちちくかわいそうすね け212試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中うですよね」「ああ。嫌いだって言ってた」だから戦場ヶ原は子供が嫌いなのだ。八九寺のことも嫌いなのだ。ひょっとしたら僕のことも嫌いかもしれない。もっとも、今の会話の流れで言うならば、戦場ヶ原が厳しいのは、お勉強に対してということだけでは、ないのだが……まあ、その辺は、優等生ということで。「さながらハートフル軍曹ですね」「なんだそのいい人そうな陸軍下士官は」「えーっと、戦場ヶ原さんのお家といいますと、この間の公園の――」「いや、言ったと思うけれど、戦場ヶ原はそこからは結構前に引っ越していて――僕は、お前と会うちょっと前に一度、もうお邪魔したことがあるんだけど、結構、遠い場所でな。家に帰って、チャリを乗り換えて、それから向かうとして……ああ、考えてみりゃ、時間、そんな余裕あるわけでもないのかな」「お急ぎでしたら、野暮なお引止めはしませんが」「いや、切羽詰まっているってわけでもないさ」それに、戦場ヶ原の家に行くのだと言っても、どうしてもやることがお勉強だから、いまいち乗り気になりきれないというのも、偽りのない本音の部分だしな……そんなことを戦場ヶ原に言ったりしたら、どんな暴言毒舌がこの身に浴びせられることになるのか、知れたものではないが。しかし、まあ。戦場ヶ原ひたぎ。八九寺もそうなのだけれど、しかし、戦場ヶ原は戦場ヶ原で――「なあ、八九寺……お前って」と、そんな風に。言いさしたところで、背後から、音が聞こえた。音。足音、である。細かく刻まれたリズムが小気味いい、『たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ』と、走っているというよりは、一歩ずつ跳ねているような、一歩ずつ跳んでいるような――そんな足音。もう、後ろを振り向いて確認するまでもなかった。そうなんだよな……。せっぱつ213試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中平和で平穏でないというなら、ある意味、実力テストの他にも、非常に困った問題を抱えているんだよな、この僕は……。撒いたと思っていたのに。たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ。どんどん近付いてくる足音。確認するまでもないとはいえ――しかし、振り向かないわけにもいかない。たんっ!そして、僕が嫌々の渋々、ゆっくりと身体を捩ったときに――彼女は、跳んでいた。彼女は。神原駿河は、跳んでいた。走り幅跳びよろしく、一メートルや二メートルではきかない距離を、まるで万有引力の法則を無視しているかのごと
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