第34章

                する必要がないんですっ。わたしにとってはこの程度、日常自販機なんですからっ!」「へえ……定価販売なんだな」変な相槌だった。もくひむく126試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中まあ、八九寺の立場からしてみりゃ、お節介なんだろうけれど、こんなの。僕だって小学生くらいの頃は、自分ひとりの力で、何でもできると信じていた。人の手なんて借りる必要はないと――あるいは、他人に助けてもらう必要なんて皆無だと、そう確信していた。なんでも、できるだなんて。そんなこと。できるわけもないのに。「わかりましたよ、お嬢様。お願いです、この住所の場所に一体何があるのか、どうかわたくしめに教えてくださいませ」「言葉に誠意がこもってませんっ」なかなか頑強だった。中学生の妹なら、二人ともどっちも、この手で確実に落ちるというのに……とはいえ、八九寺は賢そうな顔立ちをしているし、馬鹿な子供をあしらうようにはいかないというわけか。全く、どうしたものだろう。「……うむ」妙案が閃いた。尻のポケットから、財布を取り出す。手持ちは結構ある。「お嬢ちゃん、お小遣いをあげよう」「きゃっほーっ! なんでも話しますっ!」馬鹿な子供だった。ていうか、本当に馬鹿……。なんだかんだ言っても歴史上、こんな手で誘拐された子供は一人もいないと思うが――八九寺はその一人目になるかもしれない得難い人材のようだった。「その住所には、綱手さんという方が住んでいます」「綱手? それ、苗字か?」「立派な苗字ですっ!」何故か立腹した風に、八九寺は言った。知り合いの名前をそんな風に言われたら、気分を悪くするのはわかるけど、そんな怒鳴りつけるようなことでもないだろうに。情緒不安定というか、なんというか。「ふうん……で、どういう知り合いなんだ?」「親戚です」「親戚ね」ひらめつなでしんせき127試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中つまり、日曜日を利用して、親しくしている親戚の家に、一人で遊びに行く途中ということなのだろうか。よっぽど放任主義の親なのか、それとも、八九寺がこっそり、親の目を盗んで抜け出て勝手にここまで来たのか、それはわからないが――決意むなしく、休日の一人旅という小学生の冒険も、中途破綻ということらしい。「仲のいい従兄弟でもいるのか? そのリュックサックから見ると、結構な遠出なんだろ?全く、そんなもん、ゴールデンウィークにでも済ませておけよ。それとも今日でなきゃ駄目な理由でもあるのか?」「そんなところです」「母の日くらい、家で親孝行してればいいのに」それは。僕が言っていいことではないけれど。――兄ちゃんは、そんなことだから。そんなことだから――何が悪いというのだ。「阿良々木さんに言われたくはありませんっ」「いや、お前が何を知ってるんだよ!」「なんとなくですっ」「…………」理屈ではなく、単純に僕から説教じみたことを言われるのが、生理的に嫌だということのようだった。酷い。「阿良々木さんこそ、あんなところで何をされていたのですか。日曜日の朝から公園のベンチでぼーっとしているなんて、まともな人間のやることとは思えませんが」「別に。ただの――」暇潰しと言いそうになって、寸前で思いとどまる。そうだった、何をしていると訊かれて暇潰しと答える男は、甲斐性なしなのだった。危ないところだった。「ただの、ツーリングだよ」「ツーリングですかっ。格好いいですっ」褒められた。後に何か酷い言葉が続くかと思ったが、何も続かない。そうか、八九寺は僕を褒めることができるのか……。「ま、自転車でだけどな」はたんいとこ128試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「そうですか。ツーリングと言えば、やはりバイクですよねっ。とても惜しい感じですっ。阿良々木さんは、免許はお持ちでないのですかっ?」「残念ながら、学校が校則で免許の取得を禁止してるから。でも、どっちみちバイクは危ないからな、僕はクルマの方がいいや」「そうですか。でもそれですと、フォーリングになってしまいますよねっ」「………………」うわあ、この子、ツーリングのスペルをかなり面白く勘違いしてる……。訂正してあげるのが優しさなのか、そっとしておくのが優しさなのか……僕には判断できなかった。ちなみに前を行く戦場ヶ原は無反応。会話に入ってこようとさえしない。知能の低い会話は聞こえないのかもしれなかった。とはいえ。ここで初めて見せた、八九寺真宵の屈託のない笑顔は、かなり、魅力的なそれだった。打ち解けたみたいな笑顔。ひまわりが咲いたような、と言えばありがちだけれど、この年代を越えてしまえば、ほとんどの者は浮かべられなくなるだろう、そんな微笑だった。「ふう……やれやれ」これまた、全く危ないところだった。僕がロリコンだったら惚れているシチュエーションだ。ああ、僕はロリコンじゃなくて本当によかった……。「でも、本当にややこしいな、この辺の道。どういう構造になってんだ? お前、よくこんなところ、一人で来ようと思ったもんだよ」「別に初めてではないですから」「そうなのか。じゃあ何で迷うんだよ」「……久し振りだからです」恥じ入るように、八九寺は言った。ふむ……しかし、そんなところだろう。できると思っていることと、実際にできることとは、違う。思っていることは思っているだけだ。それは、小学生でも高校生でも、それ以外のどの年齢でも、同じことだろう。「そういえば、阿良々々木さんは――」「々が一個多いぞ!?」「失礼。噛みました」「気分の悪い噛み方してんじゃねえよ……」「仕方がありません。誰だって言い間違いをすることくらいはあります。それとも阿良々木さくったくか129試用中試用中試用中試用中試用中試(继续下一页)六六闪读 663d.com