第61章

                みがほどけている。いや、ほどけているという表現はこの場合誤りだろう、いくら委員長の中の委員長、クラスメイトではなく神に選ばれた委員長とは言え、生まれたときから三つ編みの髪型だったわけではあるまい。ましてこの早朝のことだ――まだ三つ編みに結われていないと、そう言うべきなのだろう。髪を結んでいない状態の羽川を、僕は初めて見る……当たり前のことだが、三つ編みに結ばれていない羽川の髪は、随分と長いように感じる。見た感じ、戦場ヶ原よりも長そうだ。その髪に、羽川はハンチング帽をかぶせている。帽子をかぶった羽川というのも、初めてだ。さとさいはい214試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「……あ、阿良々木くん」そこで、ようやく羽川は僕に気付いた。今まで、自分の身体を抱えるように俯く姿勢を取っていたので、正面にいる僕に気付かなかったらしい。その表情は、心なし、焦燥している。ように見える。「駄目じゃない――自転車で公園に乗り込んできたら。ちゃんと駐輪場があるんだから、そこに停めてこないと」出会いがしらに注意を受けた。さすが羽川。「そんなことを言ってる場合じゃないだろうが――大体、学校サボらせといて、今更自転車のことなんて」「それとこれとは問題が別よ。早く停めてくる」「…………」むう、頭ごなしな物言いだ。忠犬よろしく駆けつけた僕に対して、まず労いの言葉とかはないのだろうか?しかしここで僕が文句を言っても始まらない。羽川の言うことも確かだ。僕は「わかったよ」と言って、自転車から降り、広場から離れた駐輪場まで、押して歩いた。五月十四日にも見た、錆び付いたボロボロの自転車が、変わらずそこには停められていた。その横に並べて、僕は自転車を置き、鍵をかける。まあ、相変わらず人っ子一人いない公園だし(休日だろうが平日だろうが関係ないらしい)、鍵をかける必要はあんまり感じないけれど……。広場に戻る。ベンチに座っている羽川。……薄手の上着である程度覆い隠されてるけど、あのだぼだぼのズボン、あれってどう見ても、色合いといい生地といい、パジャマだよな……。じゃあ、上着の下も、パジャマか……サンダルもつっかけって感じだし。寝起きの寝覚めに、上着だけを羽織って、そのまま家を飛び出したってところなのだろうか……。「ごめんね、阿良々木くん」羽川の前にまで行き至ると、謝られた。労いの言葉でこそなかったが。「学校、サボらせちゃって」ねぎらさ215試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「ああ、いや――別に。そんな風に聞こえちゃったか? 皮肉で言ったわけじゃないよ」「でも、心配しないで――ちゃんと計算してるから。今日の時間割なら、一日、全部欠席しても、阿良々木くん、何の問題もないから」「…………」嫌な計算だ。助けを求めるときまで、計算ずくか……。やっぱり、ちょっと頭回り過ぎだよな、こいつ。だって、それって、もしも今日の時間割で、僕の出席日数その他の問題と齟齬が生じていた場合、僕にああいうメールを送ってはこなかったということになるんだろう?後先考え過ぎだ。「……委員長と副委員長が抜けちまって、文化祭の準備はどうするんだ? それも、何か考えがあるのか?」「阿良々木くんにメールを送ってから、職員室に電話したから大丈夫……保科先生に、今日やるべき作業とその手順は、伝えておいたから」「…………」如才ねえー。僕が公園に来るまでの待ち時間を有効活用するその連絡の順序が特に如才ねえー。「放課後の指揮は、戦場ヶ原さんに執ってもらうようにしておいたわ」「え? それはミステイクじゃねえのか?」あいつは人と一緒に何かをすること、人のために何かをすることが、何より嫌いな女だぞ?文化祭の準備なんて、恐ろしいくらいそのハイブリッドじゃないか。混ぜるな危険にも程がある。「戦場ヶ原さん、昨日、サボったからね。その埋め合わせよ」「はあん……」あの傍若無人の戦場ヶ原も、羽川の前じゃ形無しだな……まあ、あいつは今でも、クラスの中での立ち位置は一応深窓の令嬢のままだから、いざ頼まれたら頼まれたで、ちゃんと、役回りくらいはこなしてみせるだろう……。「お前がいい奴でよかったと思うよ。その比類なき計算高さは、悪用すりゃ、どんなことでもできそうだもんな」「そうでもないわよ。計算高さって面じゃね……阿良々木くんの携帯電話の、電源が切られているかどうかが、割と危うい賭けだったし。時間的に、校内には這入っているだろうから、電話を掛けて確認するわけにもいかないしね……」そごと216試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「うん? 電源が入っているかどうかは、ワン切りででも確認すればよかったんじゃねえか?」「そうしたら、阿良々木くんは律儀にコールバックしてくるでしょ」「なるほど。僕の性格はお見通しか」メールを受け取るのはありでも電話を掛けるのはアウトか……微妙な判断基準だ。羽川としても、そこら辺はどうやらぎりぎりの選択だったようだ。そんな暇はないかとも思ったが、この公園に来る途中、信号待ちのときにメールに返信をしておいてよかった。こうなると、八九寺との立ち話も無駄じゃなかったな――あれより早く学校についていたら、教室で携帯電話の電源を切っていただろうから。…………。いや、それはさておき。着ている服がパジャマだと気付いてしまうと、相手が羽川だとわかっていても、なんだかどきどきしちゃうな……。女の子のパジャマ姿なんて非日常なものを見るのは、これが初体験になるし(妹二名はケースとして除外)。惜しむらくは上着だ。ズボンしか、それもその足から先しか見えないのは、画竜点晴を欠く……というか、点しかない感じだ。チラリズムというには、出し惜しみにも程がある。この大味の上着を脱がす方法はないだろうか。北風と太陽っぽく。「なあ羽川」「何?」「いや――羽川様」「さま?」「上着を、こちらでお預かり致します」「…………」うわっ。すげえ(继续下一页)六六闪读 663d.com