第50章

                ている内に、時間は経過。気付けば高速道路を降りていた。車窓から外を窺う限り、僕らが住んでいる町よりも更に田舎の、田園風景だった。どこだここは。どこに連れてこられてきた。馬鹿な会話をしている内に……。「もう少しね」同じように窓の外を確認し、戦場ヶ原は言った。「あと三十分くらい――かしら。時間的にも、丁度いい……か。さすが私ね」「…………」何が丁度いいのか知らないけれど、時間的なことは、それは全面的に戦場ヶ原父の手柄だと思うのだが――お前は礼も言わないのか。ううん。仲、あんまりよくないのかなあ。そういえば、戦場ヶ原と戦場ヶ原父、あんまり会話らしい会話をしていない。出発前に簡単なやり取りがあった程度だ。いや――でも、不仲ってことはないはずだ。だって、戦場ヶ原が忍野に怪異絡みで世話になった謝礼金、十万円を支払うにあたって、彼女は父親の仕事を手伝うことで、それだけの金銭を得たはずなのだから。まあ。親子関係がややこしいのは、僕らの年頃では当たり前か――僕もそうだし、戦場ヶ原には、普通ではない家庭の事情もあったことだし。羽川だって。…………。あー、思い出しちゃった。羽川の頭痛だ……その後の、ブルマー&スクール水着騒動によってなんだか有耶無耶になってしまったが……、そんなことで有耶無耶になってしまったというのもどうかと思うが……、頭痛。頭が痛い。忍野に相談した方がいいのかな。でも、あんまり安易に忍野を頼るのもよくないか――この前言われたことではあるが、あいつだって、いつまでもあの廃ビルに住んでいるわけじゃないのだから――173試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中別れは来る。いつかはわからないけれど、遠くない未来。「なあ、せんじょ――ひたぎさん」「黙りなさい」途中で気付いて言い直したのに、そんな姿勢を評価するでもなく、戦場ヶ原はぴしゃりと、僕の発言を封じた。「ぴーちくぱーちくぽーちく、うるさいわね」「ぽ、ぽーちく?」「もうすぐ到着するのだから、少しくらい静かにしたらどうなの」「…………」勝手な言い分だ……。「私は阿良々木くんの馬鹿話に付き合ってあげるほど、暇人でもなければ火星人でもないのよ」「火星人は僕の馬鹿話に付き合ってくれるのか?」大体、到着するって、どこになんだよ。そろそろ教えてくれてもよさそうなものなのに。お楽しみっていうなら、もう十分に楽しんだぞ? しかしまあ、そうは言っても、戦場ヶ原の父親の前で、拷問トークを続けるのにもいい加減限界を感じていたところだったので、戦場ヶ原のその言葉は、考えてみれば願ったり叶ったりといった感じだった。僕は「わかったよ」と言って、車のシートに、ゆったりと体重を預けた。「うるさいわね」「え? 何も言ってないじゃん」「呼吸音や心音がうるさいと言っているのよ」「いや、それは死ねと言ってるんだ」なんて、その会話を最後に。戦場ヶ原も、もう喋らない。何でだろう。心なし、緊張している――ようにも見えるけれど。緊張するような場所に連れて行くつもりなのか?クルマは、山道に入ったようだった。山――それも、昨日一昨日、神原と登ったような、小さな山じゃない、本格的な山だ。大きく螺旋を描くような道路を、ジープの馬力で、登っていく。道路がきっちり整備されているのらせん174試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中も、昨日一昨日の山と違うところだ。山の上……?また神社か?初デートがお参りって……。嘘だろ?「今更聞くのも遅きに失した感じだけどさ……一体、どこに行くつもりなんだ?」「いいところ」「…………」「い?い?と?こ?ろ」「………………」そんな色っぽく言われても……。絶対嘘じゃん。「というか、阿良々木くん、行くつもりも何も、既についたわよ。ほら、そこ、もう、駐車場だもの」言われて正面を見れば、その通りだった。到着。現在時刻が十時近くだから……二時間以上のドライブだったというわけだ。息詰まるような恐るべきドライブだったが、これでようやく、一息らしい一息がつけるというわけだ。戦場ヶ原父は見事な駐車技術で、がらすきの駐車場の端っこの方へ、ジープを停める。やれやれと、クルマから降りようとしたところ、ところが、その動作を戦場ヶ原に止められた。手を握って止められたとかじゃなく、撫で回していた太ももに爪を突き立てるという、驚異の止め方だった。ケモノかこいつは。猫じゃねえんだから。「な……なんすか?」「阿良々木くんはここで少し待っていて」戦場ヶ原は言った。「私が一人で先に行って、準備してくるから」「準備って……」準備が必要なのか?て言うか、戦場ヶ原、この状況で、僕がここで待っていて、お前が一人で先に行っちゃったりしたらさ――175試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「お父さんと歓談でもしておいて頂戴」とんでもないことを軽く言い捨てて。本当に戦場ヶ原は、一人でジープを降りていった。行ってしまった……。まさか自分のことをそんな風に描写する日が来るとは思わなかったが、しかしこうなってしまえば、そう描写する他あるまい……飼い主に置き去りにされた捨て犬の気分だった。何て奴だ、戦場ヶ原。この苦境に僕を取り残すだなんて……。裏切ったのか、寝返ったのか。それとも裏返ったのか!……混乱で何を言っているのかもわからない。大体、裏切ったも寝返ったもない、考えてみれば、そもそも最初から、この苦境に僕を引きずり込んだのは、戦場ヶ原ひたぎ本人じゃないか。しかし、それにつけても信じられない……。狭い車内に、彼女の父親と二人きり……。これはもう拷問ですらない。刑罰だろ。こんな過酷な経験をしている高校三年生なんて、日本中探しても多分僕しかいないぞ……なんて(继续下一页)六六闪读 663d.com