第53章

                やらしい子だから罰を受けている最中です』と書かれたプラカードを首から提げて廊下に立たされてる女子高生、阿良々木くんはどちらの方が好きかしら?」「……従います」硬軟織り交ぜた戦略とはよく聞く言い回しだが、こいつには硬しかないんだな……と、呆れながら、僕は頭をむしろ下げ、足元に視線をやる。戦場ヶ原ひたぎは、しかし、それでも、僕の頭から手を離さず、そのまま、「では行きましょう」と、歩みを再開する。うわあ。犬の散歩みたい。「……お前には本当におどろおどろかされるな」「おどろがひとつ多いわよ。まあ、阿良々木くんを少しでもおどおどろかせたいと思う、私のサービス精神の賜物ね」「おどがひとつ多いんだよ! 本当、ひでえことばっか言いやがって。お前に慈悲はないのかよ」「茲悲ならあるわよ」「心がねえ!」「全く、大袈裟な。会話に多少のエスプレッソをきかすのは、礼儀のようなものでしょう」「高校生には苦過ぎる……」無論、正しくはエスプリである。苦過ぎると荷が過ぎるもかかっているのだ。駐車場から離れると、途端、暗くなる。しかしそれでも――山の上の天文台というこのシチュエーションの所為だろう、空を見上げるまでもなく、ある程度は星々の光で、真っ暗闇とはならない。僕らの住んでいる町も相当な田舎だから、夜になれば星座を確認することくらいはできるが、さすがにこんなところまで出向いてしまえば、較べるべくもなさそうだ。あ、と。そこで僕は、ようやくのこと、思い至る。「そう言えば、神原の奴」「何? 神原を可哀想な目に遭わせる相談?」「誰がそんなこと相談するか!」「さすが阿良々木くん。神原を可哀想な目に遭わせるのならば、一から十まで全部、自分一人たまもの185試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中で決めると言うのね」「神原を可哀想な目に遭わせる奴はこの僕が許さねえよ! それがたとえお前でもだ! そんなこと言ってんじゃねえ!」「じゃあ何」「一昨日だったか、神原と星座の話をしたんだよ」へびつかい座。あんまり詳細に触れると、戦場ヶ原の誕生日の件まで含む話なので、さわりだけで済まさなければならないが。「そのとき、神原が言ってたんだ。年に二度くらいは、他県の天文台で開かれるイベントに参加している――って。それって、ひょっとして、ここのことなのか?」あれだけ――エロさにおいてさえ、戦場ヶ原から影響を受けている神原駿河のことだ。その線は十分に考えられる。すると、案の定、戦場ヶ原は、「多分、そうでしょうね」と、そんなことを言った。「私自身は、ここに来るのは久し振りだけれど……、あの子には、いつか、話した覚えがあるわ。ふむ……、そうだったの。神原がね……」「らしくないと思うか――とか言ってたな、そう言えば。そういう意味か。可愛い後輩じゃねえか、全く」「そうよね。やっちゃいたいくらい」「何をだ!?」ああ……そう言えば、ついでにもう一つ、思い出したぞ。初めて戦場ヶ原の家を訪ねた日のこと……、僕、戦場ヶ原を相手に、僕は天文学に詳しいとか何とか、大法螺を吹いたことがあったな。月の模様がどうとか言って……生半可な知識を披露して、戦場ヶ原にひっくり返された記憶がある。うわ、恥ずかしい。これは忘れててよかったな。そりゃひっくり返されるさ。僕、天文台なんか来るの、これが初めてだ。「……しかし、誰もいないんだな」「今は取り立てて観測の時期じゃないもの。平日だしね。来ている人は、全員、あの天文台の中でしょう」「あの?」顔を上げようとして、押さえつけられる。ていうか、頭皮に爪を突き立てられる。「なあ、戦場ヶ原……お前今、絶対、自分で考えている以上に酷いことをしてるんだぞ?」「そうかしら」おおぼら186試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中僕からの親切な諫言に、しかしどこ吹く風の戦場ヶ原ひたぎ。「私の白魚のような手で頭をつかまれるなんて、むしろ幸運の部類に入るんじゃない?」「白魚は白魚でも、お前の場合はホホジロザメって感じなんだけど……グレートホワイトシャークな」「あら嬉しい。私の頬が透き通るような白さだなんて、阿良々木くんもなかなかお上手ね。優しくしてあげたくなっちゃった」頭皮に爪が更に食い込んだ。地味だけど効果的な痛みだった。本当にホホジロザメか、こいつは……そう言えば、あの生物の洞のような感情を感じさせない眼は、戦場ヶ原の無表情を如実に連想させるよな。そうか、僕の彼女はホホジロザメなのか……。ひたぎシャーク。「要するに、天文台があるんだな?」「ええ。大型の反射望遠鏡があるわ」「ふうん。そのすごさってのは、ちょっとわからないけれど……そこに這入るのか?」「いいえ」戦場ヶ原はあっさりと首を振る。「入場料がかかるもの」「…………」「私は貧乏なのよ」胸を張って言われても……。まあ、そうだったな。「天文台の入場料くらいなら、僕が出してもいいけれど……それくらいの手持ちはあるぞ」「私のためにお金を使いたいとは、いい心がけね。でも、今回のところは、遠慮しておくわ。建物の中で望遠鏡を覗くより、私的にはお勧めのスポットがあるから――と。こっちよ」戦場ヶ原は、道から外れ、丘を登るように移動する。短く刈られた草を踏み分けながら、僕は戦場ヶ原の足取りを追う。中腹辺りで、戦場ヶ原は足を止めた。そこにはビニールシートが敷かれていた。なるほど、準備とは、このことか。「目を閉じて、横になりなさい」ここまで来れば、もう逆らう理由も抗う必要もない。戦場ヶ原の意図も読めた。僕は言われかんげんうろあらが187試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中るがままに目を閉じて、ビニールシートの上に横たわった。頭から手が離れる。そして、僕の隣に、誰かが寝転ぶ気配があった。誰かと言って、これで戦場ヶ原以外の人間だったら、とんでもないイリュージョンだけれど。「目を開けていいわよ」言われるがまま。そし(继续下一页)六六闪读 663d.com