第39章

                して雇っているはずの警備員は、一体何をやっていたんだろう。可愛い中学生に和んでいたのだろうか。ほんぽうざこね せんさいかきょうふしんやとなご131試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「ば……馬鹿でごめんなさい」謝られた。そんな理由で謝られたのは初めてだ……。「でも……暦お兄ちゃんにお礼、言いたくて……言いたくてたまらなくって……それで、いてもたってもいられなくて……」「律儀な奴だな……」難儀な奴だな、と言いたいところだけれど。お礼ねえ。「それなら、神原の方にこそ、礼、言っとけよ。神原、もうここ、通ったろ? 会ってないのか? 僕とお前はそうは言っても旧知の間柄だけど、あいつはほとんど無関係なのに、お前のために色々腐心してくれたんだから。あんな奴、なかなかいないぞ」色んな意味で。多くは語らないが、しかし、千石の件で、神原が無私の働きを見せてくれたことは、それは偽りようのない事実だ。「うん……そう思ったんだけど」千石はおどおどと言う。「暦お兄ちゃんと神原さんは、命と引き換えに撫子を助けてくれたんだから――」「いやいやいやいやいや! 僕達は別に命と引き換えにしてまでお前を助けてないよ! ほら、こうして生きてるじゃん!」「あ……そうだった」「気分でものを言ってんじゃねえよ……驚くなあ」「うん……だから、神原さんにも、改めてお礼、言いたかったんだけど……」「? なんだよ、神原、まだここ通ってないのか? ふうん、僕達のクラスが最後だと思ったけどなあ……まあ、文化祭に一番熱中できるのって、二年だからな。一年じゃ勝手がわからないし、三年は受験があるし。あいつもあいつで、好むと好まざるとにかかわらず、クラスの中心に立つちゃいそうな奴だから……」「う、ううん。神原さん、つい三十分くらい前、ここ、通ったの」「ああ、そうなのか。じゃあ、そのとき声かけなかったのか? 友達と一緒とかだかで……あいつ友達多そうだもんなあ」「ううん……一人だったけど……」複雑そうな表情を作る千石だった。「神原さん、撫子が声をかける前に、眼にも止まらないものすごいスピードで走り去っていっいつわ132試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中ちゃったから……」「…………」急ぎの用があったんだな、きっと……。大方、昨日買ったという大量のボーイズラブ小説の積み残しを、一気読みするためとかなんとか、そんな感じの素敵極まりない用事だとは思うが、知り合いに声をかけるのもためらうような千石のことだ、走っている神原の前に立ちふさがるなんて、できるわけもない。「轢かれるかと思っちゃった……」「まあ、わかるよ……その気持ちは本当によくわかる。僕も疾走中の神原に、話しかけようとは思わない」「うん……宅急動みたいだった」「どうしてわざわざビックリマンに登場するメインキャラクターであるところのヤマト王子の必殺技で例えるんだよ! 逆に分かりづらい上に、突っ込みもここまで説明的になっちまったよ!」「うん……撫子も通じるとは思わなかった」本当に意外そうだった。やれやれ、どうやら僕の突っ込み担当としての力量を、彼女は見誤っていたようだ……とか、得意げになるようなシーンでは、勿論なく。「しかし、ビックリマンって、今時の女子中学生が知ってるもんなのか? リニューアル版のチョコレートがあるからキャラの名前くらいならまだしもだけど、必殺技の名前なんて……」「DVDで見たの」「ああ、そうか……便利な世の中だな。しかしそれにしたって宅急動はわかりにくい。せめて縮地法くらいのことは言えよ」「縮地法って……えっと、確か、近くのものは大きく描いて遠くのものは小さく描くっていう表現技法?」「それは遠近法だ!」「そうだっけ……でも、似たようなものだよね」「全然違う! 武術最高峰の奥義と絵画の基本とを一緒くたにするな!」そう怒鳴りつけると、今度は千石は、くるりと僕に背を向けて身体をがたがたと震わし始めた。きつい突っ込みですわ泣かしてしまったかと焦ったが、そうではなく、千石は必死で笑いをこらえているらしい。呼吸がとても苦しそうだ。そうだった、こいつ、笑い上戸だった。でも、自分のやり取りでもおかしいんだ……。ひしっそうおうぎ133試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「暦お兄ちゃん……相変わらず面白い」そんなことを言う千石。……よく憶えていないのだけれど、僕、小学生の頃から、こんな役回りだったのか……?なんだか凹むな……。でもこいつ、千石撫子、なかなかどうして面白い話、できる奴じゃん。僕の突っ込みが全開とまではいかなくとも、結構さえわたる。ま、昨日は、怪異の悩みのど真ん中だったからな……そんな余裕がなかったと見るべきなのかもしれない。そうなると、この内気な少女が僕のスキルをどこまで引き出せるのか試したくなってくるな。「あんなスピードで走って、靴が持つのか心配だけど……でも、走ってるときの神原さんって、とっても格好よかった」「惚れるなよ。前言撤回するわけじゃないが、あれはあれで難儀な奴なんだ。いや、確かに、今時珍しいくらいの格好いい奴ではあるんだけどな……まあ千石、今度、ちゃんとあいつにお礼を言える場、セッティングしてやるからさ、そのときにでも――」「う、うん。そうなんだけど」と、千石は言った。「神原さんには、他にも用事があったんだ」「そうなのか?」「うん」「ふうん……」千石が神原に対して礼を言う以外の用事なんて、ちょっと思いつかないけれど、考えてみれば神原と千石は、二人で過ごした時間も少なくなかったからな。そのときに何か約束でもしていたというところか。「なんなら、それ、僕が請け負ってやってもいいぞ? 神原に礼を言わなきゃいけないってんなら、僕もそうだし」千石の件――千石の蛇の件。もしも神原が一枚噛んでいてくれなければ――僕だって今、果たしてここでこうしていられたかどうか、怪しいものだ。同じことで何度も謝っ(继续下一页)六六闪读 663d.com