第33章

                にそんなことはないだろう。精々僕など、『お兄ちゃん』止まりだ。兄妹――か。無論、妬けるとか言っても、彼女のいる身で千石から好意を寄せられても、僕としては恐らく困るだけなのだが……。でも、これを機に、千石との親交を復活させるというのは、悪くないかもしれない。なんだか好ましい感じだし、目を離せない危なっかしさもあることだし。妹が何と言うか知らないが……。「女の子だからな。それに――十四歳か」ふふ、と軽く笑って、神原。「私もそうだったが、あの年頃の女の子が、みんな、白衣の王子様を待ち焦がれているとは限ゆるはたんや111試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中らないさ」「いや、そりゃそうだろうが……」それを言うなら、白馬の王子様だろ。白衣って……医者か?へびつかい座。「こらこら、楽しい会話は禁止って言っただろ、神原後輩――まだ終わってないんだから、集中力を切っ……」「阿良々木先輩!」神原が、突如、怒鳴った。集中力を切っていたのは、僕の方だった。千石から――うっかり、目を離していた。視線を戻すと――千石撫子は、地面に敷いたビニールシートの上に、仰向けに倒れ――びくんびくんと、変な、しかし激しい、痙攣をしていた。口が。大きく、開いている。顎骨が限界まで開いている。卵を飲み込む――蛇のごとく。蛇の頭でも――咥えているがごとく。「な――何があった!」「わ、わからないが――突然……」千石の身体から――鱗の痕は消えている。半分くらい、消えている。だが――半分は残っている。消えずに、残っている。そして。先刻までなかったはずの、千石の首にさえ、くっきりと、鱗の痕があった。蛇が――蛇切縄が、巻き憑いている。何だ……何が間違っていた?どこが違った?忍野が言っていた、『蛇呪集』にあるらしい蛇切縄の絵全身を蛇に巻きつかれ、口から身体の中に侵入されんとする一人の男――死ぬ怪異ではなく、殺す怪異。蛇神。蛇神憑き。? ? ? ? ? ?けいれん? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?? ? ? ? ?? ? ?さっき112試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「失敗したのか……!? そういうことなのか、阿良々木先輩! 失敗して、むしろ祓いが、悪い方向へと作用し、暴走して――」「いや――そんな乱暴な術式じゃないはずだ……そんな力業じゃないんだ。力業じゃないからこそ外法なんだ、マッチポンプみたいなことは起こらない、起こる理屈がない。だってこれは、怪異との、交渉、ネゴシエーションみたいなもののはずなんだから――」お願い。お願いするんだよ――と忍野は言っていた。下手に出て。それなのに……ならば戦場ヶ原のときのように千石の集中力が切れたのか? それにしたって、こんな……いきなり怪異の最終段階に至るようなことが……。だって、現実に、半分まで、うまくいったのに……!「……半分?」あっ――と、僕は、遅まきながら、気付いた。ビニールシートの上で、悶える千石。スクール水着から、伸びる、まだ肉付きの薄い、その両脚――その両脚からも、鱗の痕は、半分ほど、消えている。ただし――半分と言っても、それは露骨だった。右脚からは鱗痕は全て消えて――左脚は爪先から付け根まで、完全に鱗痕が、残っている。一枚分さえも、消えていない。胴体部分は見えないが、首元、それに鎖骨の辺りの痕跡からも、そうとわかってしまえば、それは瞭然だった――「神原……勘違いしてた。見えてさえいれば、こんなの、すぐにわかることだったのに――」「どういうことだ!?」「蛇切縄は――一匹じゃなかったんだ。二匹いたんだよ」「…………っ!」それでも――気付くべきヒントはあった。両腕と、首から上以外に、びっちりとまんべんなく、鱗痕はあったのだ。爪先から、むこうずねからふくらはぎまで――脚は二本ある。一匹の蛇が、両脚にまんべんなく巻きつくなんてこと――構造的に、不可能に決まっている。たとえば、蛇が一匹なら、内腿に鱗痕が残るわけがない。それぞれの脚の爪先から。? ?? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?もだ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?りょうぜん? ? ? ? ? ? ? ?? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?? ? ?113試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中一匹ずつ――蛇切縄は巻き悪いていたのだ。千石の身体を締め上げるように。二匹。「……畜生!」一匹は、忍野のお守りの力で――解けた。蛇切縄は、還った。そこここに――還った。だけど、お守りの効力は、そこで終わったんだ。僕の言葉が足りなかった――蛇切縄が二匹いることに僕が気付いていれば、忍野もそれに対応した策を打てたはずなんだ。今までと違い、今回に限っては、あいつの力添えに制限はない。被害者である千石撫子に出す援助は、惜しみがない。それなのに、蛇切縄が一匹だという前提で相談してしまったから、忍野も一匹分だけの対策しか――だから、もう一匹が――暴走したのだ。今まで一緒に巻き憑いていた大蛇が一匹、祓われたのだ――そうならない方がおかしい。「神原っ――そこにいろ――いや、離れてろ!」「忍野さんに連絡した方が――」「あいつ、携帯持ってねえんだよ!」主義でも何でもなく――機械が苦手だから。だから(继续下一页)六六闪读 663d.com