第20章

                んだろうけど。毒蛇、日本じゃ、マムシとかヤマカガシとかハブとかね。もっとも、逆向きに、蛇を聖なるものと看做す、蛇神信仰ってのも少なからずあるわけで――それは世界中のほとんどの地域で共通している。聖と邪を併せ持つ象徴――それが蛇さ」「あの神社も――蛇神信仰だったんだよな」「うん? あれ、秘密にしておいたのにどうして知ってるんだい? ああ、なるほど、委員長ちゃんに聞いたのか」「……よくわかったな」「阿良々木くんの周りでそれを知ってそうなのは、委員長ちゃんくらいだからね――はっはー、こんなことならお札の仕事も委員長ちゃんに頼んだ方がよかったかな? 阿良々木くんは歩けば厄介ごとを引っ張ってくるんだもんなあ。そこへいくと委員長ちゃんはしっかりしてそうだ」「あいつは――もう、支払い終えてるだろ」「だっけね」忍野はとぼけるように言う。相変わらずの反応だ。「そうは言っても、僕なんかにゃ、蛇っつったら邪悪なイメージしかないけどな。蛇神信仰と言われてもいまいちぴんと来ない。邪悪じゃないイメージは、せいぜいツチノコくらいだ」「ツチノコか。懐かしいなあ。懸賞金欲しさに、僕、頑張ってあいつを探したことがあるんだよ。見つからなかったけどね」「それって専門家としてどうなんだろうな……。しかも見つからなかったんだ……。あと、そうだ、あれは怪異じゃないのかな? ウロボロスって奴。自分の尻尾食って、輪になってる…はちゅうこうゆうりんもくへびあもくうろこせきついこつふきつ? ? ? ? ? ?のやっかいけんしょうきんしっぽ69試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中…」「ああ、あれね。自分の尻尾ってわけじゃないけど、それを言うなら阿良々木くん、蛇を食べる蛇ってのもいるんだよ? キングコブラだったかな。蛇が蛇を呑む図って、写真で見ると、かなり壮絶なんだよね」「ふうん……まあ、僕に言わせれば、蛇ってのは理屈じゃなく、生理的に怖い動物だよ。見ただけで、まず身がすくんじまう」「まあ、あんな形の陸上生物は珍しいからねえ。魚が陸で泳いでるようなもんだ、特殊といえば特殊だし、異様な目で見られてしまうのは仕方がないだろうな。海鼠を初めて食べた人間は偉い――なんて、そんな感じだね。はっはー。その上、蛇って、異常に生命力が強いんだよ。なかなか死なない。殺しても殺しても――ね。蛇の生殺しなんて言葉があるけど、あれは逆説的に、蛇の持つヒットポイントの高さを表わしているよね。あの大きさの生命としては、明らかにカウンターストップしているだろうな。ただ、蛇が人間にとって害獣ってわけでもないぜ。マムシ酒とかハブ酒とか、阿良々木くんも聞いたことはあるだろう」「飲んだことはねえよ」「じゃあ、食べたことは? 僕は沖縄で、ハブ酒と一緒に海蛇料理を食べたことがあるぜ。蛇は長寿の食材なんだよね」「蛇を食べるなんて、あんまり考えられないな……確かに、海鼠ほどじゃねえけどさ」「了見が狭いねえ。というか、根性がないな。蛇くらいで音を上げるなんてさ。大陸の方じゃわんわんを食べる地域だってあるんだぜ?」「その食文化自体を否定するつもりは毛頭ないが、食材として扱うときにわんわんって言うな!」相変わらずのやり取り。なのだが。しかし――それでも、忍野のその表情は、どことなく暗い――ような気がする。それは、僕の気のせいかもしれないけれど。学習塾跡の廃ビル。その四階。僕は火のついていない煙草をくわえた変人、もとい恩人、軽薄なアロハ野郎こと、忍野メメと――向かい合っていた。一人、である。神原駿河と千石撫子には、待機してもらっている。どこで待機してもらっているかと言えば――阿良々木家の、僕の部屋でだ。中学入学と同時に与えられた、僕の部屋。両親はともかくそうぜつなまこえらせま70試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中として、二人の妹は勝手に部屋に這入ってくることがあるが、鍵をかけていれば、数時間程度なら、大丈夫なはずだ。……本当は、ああいう性格で、しかも百合でもある神原駿河を、千石や妹達と同じ屋根の下に、監視なしで放置することについて、若干の危機感を覚えないでもないのだが、そこはそれ、僕は後輩を信じることにする。それに。なにより僕には、神原や千石を――ここに連れてきたくない理由があった。ここに連れてきて、忍野に会わせたくない理由が――あれから。僕と神原は千石を連れて――僕の家に向かった。自転車の後部座席に、千石を乗せて。神原は、まるで平然と、伴走だった。案の定というか、山を降りれば、神原の体調は元に戻ったのだった。昨日の、昼ご飯を食べたら体調が治った云々は、どうやら僕の誤解だったらしい。幸い、家は無人だった。妹達は二人とも、お出かけらしい(帰宅した形跡はあった)。あの二人の眼を欺くのが家に這入るに当たって一番の厄介ごとだったにもかかわらず全くの無為無策、行き当たりばったりの帰宅だったので、素直に助かったという感じである。特に下の妹の方……小学生の頃の友達を憶えているかどうかはともかくとして、少なくとも見れば確実に思い出すだろう。自分の昔の友達を、自分の兄が連れて帰ってきたりしたら、一体何があったのかと思うはずだ。そのまま、僕の部屋に這入る。「暦お兄ちゃん……」千石が、消え入るような声で言った。俯いたまま、聞こえるか聞こえないかの声だ。「部屋……変わったんだね」「ああ。一人部屋になった。妹達は二人とも、前と同じ部屋だよ。……しばらくしたら帰ってくると思うけれど、会っていくか?」ううん、と力なく首を振る千石。声も小さいし――リアクションも小さい。心なし、体つきも小さく見える。六年分、ちゃんと成長しているはずなのに――昔、一緒に遊んでいた頃より、ずっと小さくなっているようにも見える。それはあくまでも相対的な話で、僕もまた、六年分成長しているからなのかもしれないが――なんとなく――沈黙してしまう。すると、はいじゃっかんあざむむいむさく71試用中試用中試用中試用中試用中試用中(继续下一页)六六闪读 663d.com